映画『ツーリスト・ファミリー』

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インド映画『ツーリスト・ファミリー』を観ました。

内戦と経済破綻に苦しむスリランカから、命がけでインドに密入国してきた家族の物語です。

「密入国」と聞くと重たい話を想像するかもしれません。でもこの映画、くすっと笑えて、最後にはじんわり温かくなる、なんとも不思議な一本でした。

この家族がたどり着いた街は、もともと住民同士のつながりが薄い、どこかそっけない場所でした。

ところが、この家族が暮らし始めると、少しずつ街の空気が変わっていくのです。

なぜか。

理由はとてもシンプルで、この家族が、誰に対してもとにかく優しい。素朴で、平凡で、決して余裕があるわけでもないのに、困っている人がいれば自然と手を差し伸べる。計算でも演出でもなく、ただこの人たちがそういう人だからそうしている、というだけ。見ていて気持ちがいいのです。

すると、最初は距離を置いていた人たちが、だんだんこの家族を放っておけなくなってくる。本当はこの国にいられないはずの存在なのに、みんなが「この人たちを守りたい」と思い始める。そしていつの間にか、バラバラだった街が、ひとつになっていきました。

この映画がすごいのは、そのメッセージを押し付けてこないところ。

「異文化を受け入れましょう」とか「優しくしましょう」とか、そういう説教は一切ありません。ただ、この家族の日常を見せているだけ。それだけで、観ている側が勝手に心を動かされてしまうのです。

観ながら、先日聴いた足利尊氏の話を思い出しました。

尊氏もまた、人を動かそうとしたわけではなく、ただ自分に素直だっただけで、いつの間にか周りが動いていた。この映画の家族も、まったく同じ。「応援されよう」としたのではなくて、ただ目の前の人に優しかっただけなのですね。

応援される人になるには、どうすればいいのか。

この映画の答えは、拍子抜けするほどシンプルでした。まず自分が、人に優しくする。それだけ。

あたりまえすぎて、つい忘れてしまうことだけれど。やっぱり、これに尽きるのだと思います。

新人監督による、スター不在の低予算作品が、口コミだけでインド中に広がったそうです。それがなんだか、この映画の中身そのものみたいで、微笑ましい。

優しさは伝染する。

そのことを、スクリーンの中でも外でも証明してみせた、素敵な映画でした。