Audibleで、佐藤青南さんの『犬と逃げる』を聴き終えました。
島原の空気を、すぐそばに感じられる時間でした。
小学校の校庭に、一匹の犬が逃げ込んでくる。
そんな、ほのぼのとした風景から物語は始まります。
子どもたちと犬のあたたかい交流が描かれるのかな、と思っていたら――物語はそこから、思いもよらない方向へ広がっていきました。
犬の飼い主と、引っ越してきて友達のいない、ひとりの小学生。
ふたりの交流が静かに深まっていくにつれ、犬と飼い主がなぜその子の近くにやってきたのか、その経緯が少しずつ明らかになっていきます。
その理由が、なんとも胸に刺さる。
けれど、犬と飼い主のあいだにある絆を知ると、どうか幸せでいてほしいと応援したくなる。少女が引っ越してきた理由とも重なっていくと、もう「どうにかみんな円満におさまってほしい」と、祈るような気持ちでした。
そして、最後に明かされる犬の「正体」。
ああ、そうだったのか――と知ったとき、胸に広がったのは、ただただ愛おしいという感情でした。
夫婦、親子、犬と人間、友人、知人。
どの関係も複雑で、簡単にはいかないことばかり。
でも、その底にはちゃんと、あたたかいものが流れている。それを感じて、涙が止まりませんでした。
長く生きていると、家族のつながりって、きれいごとだけではすまないなあと思うことが増えました。すれ違ったり、言葉が足りなかったり。
それでも、ちょっと踏み込んで話してみると、その奥にはちゃんとあたたかい思いが隠れていたりする。うまく伝えられていないだけなんですよね。
そういうとき、あいだに誰かがそっと入るだけで、こじれていたものがふっとほどけることがある。この物語を読んで、そんな瞬間を思い出しました。
犬好きの方にも、ミステリー好きの方にも。
そして――人との関係にちょっと疲れたな、と感じている方にも。
そっと寄り添ってくれる物語です。

